溶接作業中の目の痛みの原因とは

溶接作業をしていると、目がチカチカしたり、痛みが出たり、涙が止まらなくなったりすることがありますよね。これは、溶接作業中に発生する強い光や熱、紫外線などが原因で、目を傷つけてしまうことがあるからです。

例えば、溶接作業中に発生する金属の粉塵やヒュームを吸い込んでしまうと、目のかゆみやくしゃみ、鼻水などの症状を引き起こすことがあります。酷い場合には、金属熱と呼ばれる発熱や悪寒、筋肉痛などを伴う全身症状が現れることもあります。

今回は、溶接作業中の目の痛みについて、その原因や対策、予防法などを詳しく解説していきます。

紫外線による影響

溶接作業では、太陽光よりもはるかに強い紫外線が発生します。目に見えない光である紫外線ですが、長時間浴び続けると、目の表面が日焼けのような状態になり、炎症を起こしてしまうのです。

紫外線による目の影響は、真夏の強い日差しを浴び続けると、肌が赤くなったり、ヒリヒリしたり、水ぶくれができてしまうのと似ています。これは、太陽光に含まれる紫外線が、皮膚の細胞を傷つけてしまうからです。目も同じように、紫外線を浴び続けると、表面が傷ついてしまい、炎症を起こしてしまうのです。

紫外線は波長によって、角膜、水晶体、硝子体、網膜など、眼の奥深くまで到達するものが異なります。これらの組織に有害な紫外線量を浴びると、眼の障害を引き起こす可能性があります。

例えば、角膜で吸収されやすい波長の紫外線を浴び続けると、角膜上皮が剥がれ落ち、強い痛みを感じます。これは「雪目」や「電光性眼炎」と呼ばれる症状で、溶接作業だけでなく、スキーやスノーボードなどでも起こることがあります。酷い場合には、角膜に濁りが生じて、視力低下や物が歪んで見えるといった症状が出ることもあります。

可視光線による影響

溶接作業では、太陽光よりもはるかに強い可視光線が発生します。可視光線とは、人間の目で見ることのできる光のことです。溶接作業中に発生する光は、太陽光よりもはるかに強いエネルギーを持っているため、網膜という目の奥にあるスクリーンのような部分にダメージを与えてしまうことがあります。網膜は、カメラでいうとフィルムの役割を果たす、とても大切な部分です。強い光を浴び続けると、網膜が炎症を起こしたり、最悪の場合、視力低下や失明につながる可能性もあるのです。

可視光線による目の影響は、虫眼鏡で太陽光を集めた時に似ています。虫眼鏡で太陽光を集めると、一点に集中した光は強いエネルギーを持ち、紙を焦がしたり、火を起こしたりすることができますよね。溶接作業中に発生する光も、これと同じように強いエネルギーを持っているため、網膜にダメージを与えてしまうことがあるのです。

網膜は一度損傷してしまうと、自然に修復することが難しいため、強い光を浴びる際には、特に注意が必要です。網膜が損傷すると、視力低下や視野欠損などの症状が現れます。

その他の要因

溶接作業では、金属の粉塵やヒュームなどが発生することもあります。これらの異物が目に入ると、目の表面を傷つけたり、炎症を引き起こしたりすることがあります。また、溶接作業中の姿勢や環境などによっても、目に負担がかかり、痛みや疲労感を感じやすくなることがあります。

例えば、鉄などの金属の粉塵が目に入った場合、角膜に傷がつきやすく、そこから細菌感染を起こして、角膜潰瘍などの深刻な病気を引き起こす可能性があります。また、溶接作業は高温になることが多く、その熱によって目の乾燥が促進され、ドライアイを引き起こしやすくなります。

さらに、溶接作業は長時間にわたることが多く、その間ずっと同じ体制で作業を続けることで、眼精疲労や肩こり、頭痛などを引き起こすこともあります。長時間の作業による眼精疲労は、目の奥の痛みや頭痛、吐き気などを引き起こすこともあります。また、集中力の低下や作業効率の低下にも繋がります。

溶接作業中の目の痛みの種類と症状の特徴

溶接作業中に目が痛いと感じたら、一体どんな原因が考えられるのでしょうか？ 実は、その痛み方によって、異なる目のトラブルが隠れているかもしれません。今回は、溶接作業で起こりやすい代表的な目の症状と、その特徴について詳しく解説していきます。

電光性眼炎の症状と特徴

電光性眼炎は、溶接作業中に発生する強い紫外線を浴びることで、目が日焼けを起こしてしまう病気です。よくスキー場で雪原に反射した強い紫外線を浴びてしまう「雪目」と同じような状態です。

例えば、真夏の強い日差しを浴び続けると、肌が赤くなったり、ヒリヒリしたり、水ぶくれができてしまいますよね？これは、太陽光に含まれる紫外線が、皮膚の細胞を傷つけてしまうからです。目も同じように、紫外線を浴び続けると、表面が傷ついてしまい、炎症を起こしてしまうのです。

電光性眼炎は、溶接作業中に強い紫外線を浴びた後、数時間経ってから症状が現れることが多く、目がゴロゴロしたり、痛み、涙、充血などの症状が出ます。多くの場合、数時間から数日で症状は治まりますが、症状が重い場合は、眼科を受診しましょう。

白内障の症状と特徴

白内障は、カメラのレンズの役割を果たす水晶体が白く濁ってしまう病気です。高齢者に多い病気ですが、溶接作業で長年強い紫外線を浴び続けることで、発症リスクが高まります。紫外線は、角膜で吸収されやすい波長のものと、水晶体で吸収されやすい波長のものが存在し、水晶体で吸収されやすい波長の紫外線を浴び続けると、水晶体が白く濁りやすくなってしまいます。

白内障は、初期段階では自覚症状がない場合もありますが、進行すると視力に影響が出てきます。早期発見・早期治療が大切なので、少しでも気になる症状があれば、眼科を受診しましょう。

球結膜充血や角膜上皮炎の症状と特徴

球結膜充血は、白目の表面にある結膜という部分が赤くなる状態です。角膜上皮炎は、黒目の表面にある角膜の上皮という部分が炎症を起こす状態です。これらの病気は、溶接作業で発生する金属粉塵やヒュームが目に入った際に起こりやすくなります。

例えば、鉄などの金属の粉塵が目に入った場合、角膜に傷がつきやすく、そこから細菌感染を起こして、角膜潰瘍などの深刻な病気を引き起こす可能性があります。

溶接作業中の目の痛みの治療法と予防法

溶接作業中に目が痛くなってしまったら、どのように対処すれば良いのでしょうか？ここでは、治療法と予防法について、わかりやすく解説していきます。目の痛みを我慢して放っておくと、視力に影響が出る可能性もあります。適切な知識を身につけて、目の健康を守りましょう。

眼科治療と市販の目薬の選択肢

溶接作業で目が痛いときは、自己判断で市販の目薬を使うのではなく、まずは眼科を受診しましょう。眼科では、目の表面に傷がないか、視力に影響が出ていないかなどを調べる検査や、目の奥の状態を調べる検査など、様々な方法で目の状態を詳しく検査し、適切な治療法を提案してくれます。

例えば、強い紫外線を浴びてしまった場合、「電光性眼炎」と診断され、炎症を抑える目薬や軟膏が処方されます。これは、強い日差しを長時間浴びて目が痛くなる「雪目」と似た状態です。この時、自己判断で市販の目薬を使用すると、症状が悪化してしまう可能性もあるため注意が必要です。市販の目薬の中には、血管を収縮させる成分を含むものがあり、一時的に充血を抑える効果は期待できます。しかし、根本的な治療にはならず、症状を長引かせる可能性もあるため、使用は控えた方が良いでしょう。

また、長年溶接作業に従事している方は、定期的に眼科を受診し、目の健康状態をチェックすることも大切です。知らず知らずのうちに、白内障のリスクが高まっていることもあります。白内障は、カメラでいうとレンズの部分にあたる「水晶体」が白く濁ってしまう病気で、視界がぼやけたり、かすんで見えたりします。進行すると手術が必要になることもあります。

適切な保護眼鏡の選び方と装着方法

溶接作業中の目の痛みを防ぐためには、適切な保護眼鏡を着用することが重要です。保護眼鏡は、溶接作業中に発生する紫外線や可視光線、粉塵などから目を守るための必須アイテムと言えるでしょう。

保護眼鏡を選ぶ際には、JIS規格（日本工業規格）に適合した製品を選ぶようにしましょう。JIS規格マークは、製品が安全基準を満たしていることを示すマークです。これは、家電製品を選ぶ際に、PSEマークが付いているかを確認するのと同じです。JIS規格マークやPSEマークが付いている製品は、国が定めた安全基準をクリアしているので、安心して使用することができます。

JIS規格に適合した保護眼鏡には、レンズに「遮光度」という数値が表示されています。遮光度は、レンズが光を遮る強さを表す数値で、溶接方法や電流値に応じて適切な遮光度を選ぶ必要があります。

例えば、アーク溶接では、使用する電流値が高いほど、発生する光も強くなるため、遮光度が高い保護眼鏡を選ぶ必要があります。これは、サングラスを選ぶ際に、日差しの強さに合わせてレンズの色を選ぶのと似ています。強い日差しの日は、濃い色のレンズのサングラスをかけることで、眩しさを軽減することができますよね。

また、保護眼鏡は正しく装着することが重要です。顔に隙間なくフィットするものを選び、ずり落ちたりしないように、ストラップの長さを調整しましょう。

環境改善や作業環境への対策

溶接作業を行う作業場全体で、目の痛みを予防するための環境改善も大切です。

例えば、溶接作業を行う際には、周囲に遮光カーテンを設置することで、他の作業者に強い光が漏れるのを防ぐことができます。また、局所排気装置を設置することで、溶接時に発生するヒュームや粉塵を効果的に除去することができます。溶接時に発生するヒュームには、様々な金属が含まれており、体内に吸い込むと、金属アレルギーを引き起こしたり、呼吸器疾患のリスクを高めたりする可能性があります。

これらの対策を行うことで、作業場全体の環境が改善され、溶接作業中の目の痛みだけでなく、他の健康被害のリスクも軽減することができます。

また、作業者自身が健康管理に気を配ることも大切です。十分な睡眠をとり、バランスの取れた食事を心がけることで、目の健康だけでなく、全身の健康維持にもつながります。

溶接作業中の目の痛みを軽減するための自己管理方法

溶接作業は、金属を溶かして接合する際に発生する強い光や熱にさらされるため、目にとって非常に負担が大きい作業です。2023年の調査によると、溶接作業員の約7割が、作業中に目の痛みや違和感を感じているという結果が出ています。

目の痛みを我慢して作業を続けると、症状が悪化したり、回復が遅れたりする可能性があります。例えば、初期の症状が軽いドライアイであっても、放置すると角膜に傷がつきやすくなり、細菌感染から角膜潰瘍などの深刻な病気を引き起こす可能性もあります。

早めに対処することで、目の健康を守りながら、快適に作業を続けられます。ここでは、溶接作業に従事する方が、日頃から意識していただきたい自己管理方法について解説します。

適切な作業スケジュールの調整

溶接作業は、強い光や熱にさらされるため、目に大きな負担がかかります。長時間連続して作業を行うと、目が疲労し、痛みや充血などの症状が出やすくなります。

例えば、1時間作業したら10分程度休憩をとるなど、こまめな休憩を挟むようにしましょう。休憩時間には、遠くの景色を眺めたり、目を閉じたりして、目の周りの筋肉をリラックスさせましょう。これは、毛様体筋という、水晶体の厚さを調節してピントを合わせる筋肉を休ませる効果があり、目の疲労回復に繋がります。また、十分な睡眠をとることも、目の疲労回復に効果的です。

目の疲労を軽減するための目の体操と休憩方法

溶接作業中の目の疲労を軽減するために、効果的な目の体操や休憩方法を紹介します。

• 遠くを見る：溶接作業中は一点を見つめることが多いため、意識的に遠くの景色を見るようにしましょう。遠くを見ることで、毛様体筋がリラックスし、疲労回復効果が期待できます。遠くの緑を見るのもおすすめです。
• 温める：蒸しタオルや市販のアイマスクなどで目を温めると、血行が促進され、目の疲労回復に効果的です。目の周りの血流が滞ると、目に必要な酸素や栄養が行き渡りにくくなり、疲労が蓄積しやすくなります。温めることで血流が促進され、これらの供給がスムーズになるため、疲労回復効果が期待できます。
• まばたきを増やす：溶接作業中は集中力が高まり、まばたきの回数が減ってしまうことがあります。意識的にまばたきを増やすことで、涙の分泌を促し、目の乾燥を防ぎましょう。涙は、目の表面を潤すだけでなく、目に栄養を与えたり、細菌やゴミを洗い流したりする役割も担っています。

目の保湿やクーリングゴーグルの使用

溶接作業中の乾燥や熱から目を守るためには、目の保湿やクーリングゴーグルの使用が有効です。

• 人工涙液：市販の人工涙液を点眼することで、目の乾燥を防ぐことができます。特に、エアコンの効いた室内や、乾燥した環境で作業する際は、こまめな点眼を心がけましょう。人工涙液は、涙の成分に近い成分でできており、目の表面を潤し、乾燥を防ぐ効果があります。防腐剤の入っていないものや、ヒアルロン酸など保湿成分配合のものを選ぶと良いでしょう。
• クーリングゴーグル：クーリングゴーグルは、ゴーグル内部に冷却ファンが搭載されており、溶接作業中の熱から目を保護することができます。長時間の作業や、高温環境下での作業に最適です。

これらの方法を試しても目の痛みが改善しない場合は、我慢せずに眼科を受診し、医師の診断を受けましょう。

溶接作業中の目の痛みが引き起こす影響と予防策

溶接作業中に目が痛む経験をしたことはありますか？目が痛むと、作業への集中力が途切れやすく、作業効率が低下してしまうことがあります。

例えば、細かい溶接作業中に目がチカチカすると、正確な位置に溶接ワイヤーを合わせることが難しくなり、仕上がりの品質が落ちてしまう可能性があります。あるいは、高所での溶接作業中に目が眩んでしまったら、足場から転落するリスクも高まります。

このように、目の痛みは、作業効率の低下だけでなく、安全性にも関わる重大な問題を引き起こす可能性があります。

生産性や作業効率への影響

溶接作業は、非常に高い集中力を要する作業です。ほんの少しのミスが、製品の品質や作業の安全性に大きな影響を与える可能性があります。

目の痛みは、この集中力を著しく低下させてしまいます。目が痛むことで、作業への集中力が削がれ、作業スピードが遅くなったり、ミスが増えたりするためです。

痛みがひどい場合は、作業を中断せざるを得ない場合もあり、その分、作業時間が延びてしまうこともあります。

このように、目の痛みは、作業効率や生産性に悪影響を及ぼす可能性があります。

安全性への影響と予防策

溶接作業は、高温の金属や強い光を扱うため、常に危険と隣り合わせです。

強い光や紫外線が目に入ると、目が眩んだり、視界がぼやけたりすることがあります。このような状態で作業を続けると、溶接箇所を見誤ったり、周囲の状況を正確に把握できなくなったりする可能性があり、大変危険です。

例えば、高温で溶けた金属の飛散に気づかず、火傷を負ってしまう可能性もあります。

このような事故を防ぐためには、適切な保護具の着用が不可欠です。溶接作業に適した遮光度を持つ保護メガネを必ず着用しましょう。

また、溶接作業場と周囲を遮光カーテンや衝立で仕切ることで、他の作業者への影響を軽減することができます。

職場環境の改善と意識啓発の重要性

溶接作業における目の安全を守るためには、職場全体で環境改善や意識啓発に取り組むことが重要です。

例えば、溶接作業を行うスペースに十分な照明を確保することで、瞳の開きすぎを防ぎ、目の疲労を軽減することができます。

また、定期的に作業環境の測定を行い、粉塵やヒュームの濃度を適切なレベルに保つことも大切です。ヒュームとは、溶接中に発生する金属の蒸気やガスが冷えて固まった微粒子のことで、目や呼吸器に悪影響を及ぼす可能性があります。

さらに、作業員に対して、溶接作業に伴う目のリスクや予防策についての教育を定期的に実施することで、一人ひとりの意識を高めることが重要です。

2023年の調査によると、溶接作業員の約7割が、作業中に目の痛みや違和感を感じているという結果が出ています。

溶接作業は、私たちの生活に欠かせない技術ですが、同時に、目の健康リスクと隣り合わせであることを忘れてはなりません。職場全体で安全対策を徹底し、目の健康を守りながら、安全で快適な作業環境を目指しましょう。