産業医の訪問頻度に関する法律やガイドラインを知る

産業医の訪問頻度について、「法律で決まっているの?」「2ヶ月に1回でいいの?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか? 企業の規模や業種、労働者の健康状態によって、適切な産業医の訪問頻度は異なります。 この章では、産業医の訪問頻度に関する基本的な法律やガイドライン、そして、訪問頻度を変更できるケースについて解説していきます。

労働安全衛生法における産業医の訪問頻度の規定

労働安全衛生法では、産業医は原則として月に1回以上、職場を訪問しなければならないと定められています(労働安全衛生規則第15条)。 この訪問では、労働者の働く環境や作業内容をチェックし、健康上のリスクがないか、安全に配慮した作業環境が整っているかなどを確認します。

例:工場における産業医の訪問

産業医が粉塵の多い工場を訪問した際に、作業員がマスクをせずに作業をしている場面に遭遇したとします。 この場合、産業医は、粉塵を吸い込むことによる健康リスクを会社側に説明し、マスク着用の徹底など、労働者の健康を守るための対策を指導します。

このように、産業医の定期的な訪問は、労働者の健康を守る上で非常に重要な役割を担っています。

産業医制度に関する検討会報告書の内容を解説

「月に1回以上」という原則がある一方で、平成28年の「産業医制度の在り方に関する検討会」の報告書では、一定の条件を満たせば、2ヶ月に1回の訪問も認められるとされています。

これは、企業の規模や業種、労働者の健康状態などに応じて、より効果的な健康管理体制を構築するために、柔軟な対応を可能とするための見直しです。

例:企業規模と訪問頻度

従業員10人以下の小さなオフィスで、健康上の問題を抱えている人がおらず、特別なリスクを伴う作業もない場合は、2ヶ月に1回の訪問でも十分なケースもあるでしょう。 一方、従業員1000人を超えるような大企業で、肉体労働や深夜勤務など、身体的・精神的負担が大きい職場であれば、月に1回以上の訪問が望ましいと考えられます。

2ヶ月に1回の訪問を認められる条件

企業は、以下の情報を毎月産業医に提供することで、産業医の訪問頻度を2ヶ月に1回とすることができます。

  • 衛生管理者が毎週行う作業場等の巡視の結果
  • 時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者の情報
  • その他、衛生委員会等で審議の上、産業医に提供することとした情報

これらの情報提供により、産業医は職場を訪問しなくても、労働者の健康状態や職場環境のリスクをある程度把握することができます。 その結果、より効率的かつ効果的に労働者の健康管理を行うことが可能となります。

ポイント

  • 産業医の訪問頻度は、毎月あるいは2カ月に1回に関しては法律で厳密に定められているわけではなく、企業の状況や労働者の健康状態に応じて柔軟に対応することが可能です。
  • 2ヶ月に1回の訪問を希望する場合は、必要な情報を毎月産業医に提供し、産業医の意見を踏まえて衛生委員会で審議する必要があります。

重要なのは、形式的な訪問頻度ではなく、労働者の健康を効果的に守れる体制を構築することです。

産業医の訪問頻度が2カ月に1回で適切か判断基準を知る

産業医の訪問頻度は、法律で定められていますが、会社によって、働く人によって、本当にそれで十分なのか、不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。「うちの会社は2ヶ月に1回の訪問で本当に大丈夫?」と疑問に思うこともあるでしょう。

2ヶ月に1回の訪問が適切かどうかは、会社ごとに異なる労働環境や労働者の健康状態を考慮し、産業医の役割が十分に果たせるかどうかという視点で判断する必要があるのです。

労働環境や労働者の健康状態による適切な訪問頻度の判断

まず、考えていただきたいのは、皆さんの会社の労働環境です。

例えば、工場で重いものを運ぶような肉体的に負荷の高い職場を想像してみてください。腰痛持ちの従業員が多く、定期的な健康チェックやアドバイスが必要となるケースも多いでしょう。このような職場では、産業医の訪問頻度を高く設定し、従業員の健康状態をこまめに把握することが重要となります。

一方、オフィスでパソコンを使うデスクワーク中心の職場では、肉体的な負荷は低いですが、長時間労働や精神的なストレスを抱えやすいという側面があります。そのため、メンタルヘルスのケアに重点を置き、ストレスチェックの実施や相談体制の整備など、産業医の訪問頻度以外にも必要な対策を講じる必要があるでしょう。

次に、働く人の健康状態も重要です。糖尿病や高血圧など、持病を持っている人が多い職場では、健康管理や生活習慣病予防の指導をしっかり行う必要があるため、産業医の訪問頻度を増やすことが望ましい場合があります。

例えば、従業員に糖尿病患者が多い職場では、産業医が定期的に訪問し、血糖値の管理状況や食事療法・運動療法の指導を行うことが重要です。また、必要に応じて、専門医への受診を勧めるなど、適切な医療機関との連携も求められます。

産業医の役割と訪問頻度の関連性について理解する

産業医の役割は、労働者の健康を守ることですが、具体的には、どんなことをしてくれるのでしょうか?

例えば、定期健康診断の結果を見て、医師の意見を踏まえて、一人ひとりに合ったアドバイスをしてくれます。健康診断で「要精密検査」の判定を受けた人や、生活習慣病が心配な人に対して、食事や運動などについて具体的なアドバイスを受けられます。

また、職場でのストレスチェックなども行い、メンタルヘルスの問題を抱えている人がいれば、早期発見・早期対応に努めます。

産業医の訪問頻度を検討する際には、これらの役割がしっかりと果たせるかどうかという視点を持つことが重要です。

近年、過重労働による健康障害の防止やメンタルヘルス対策等の重要性が増す中、産業医に求められる役割も変化し、対応すべき業務は増加しています。このような状況下では、従来の訪問頻度では十分な対応が難しくなる場合もあります。

そこで、平成29年6月1日より、産業医の業務をより効率的かつ効果的に実施できるよう、労働安全衛生法等の改正が行われました。

具体的には、事業者から産業医に対して、健康診断の結果や長時間労働者に関する情報提供が義務付けられました。また、これらの情報提供が毎月行われる場合に限り、産業医の職場巡視の頻度を2ヶ月に1回以上にすることが可能となりました。

しかし、2ヶ月に1回の訪問頻度で十分かどうかは、あくまでも労働環境や労働者の健康状態などを考慮して判断する必要があります。

例えば、従業員数が多く、健康上の問題を抱えている従業員が多い職場では、2ヶ月に1回の訪問では十分な対応ができない可能性があります。

産業医の訪問頻度は、労働者の健康を守る上で非常に重要な要素となります。事業者は、自社の労働環境や労働者の健康状態を踏まえ、産業医と相談の上、適切な訪問頻度を設定する必要があると言えるでしょう。

愛知つのだ産業医事務所株式会社 産業医 角田拓実