「健康経営」という言葉は耳にする機会が増えたものの、いざ自社で実践しようとすると、どこから手をつければいいか迷う方も多いのではないでしょうか?従業員の健康状態や意識、職場環境に関する課題を把握することは、健康経営成功への第一歩です。しかし、現状把握には多くの労力と時間が必要で、なかなか踏み出せない方もいるかもしれません。

この記事では、健康経営の課題を調査する上でアンケートが有効な理由と、アンケート設計から結果分析、活用方法までを、具体的な質問例や成功事例を交えながら詳しく解説していきます。従業員の健康、ひいては企業の成長を促進するための、具体的な方法を見つけるヒントになるでしょう。

健康経営における主な課題とは?3つの視点から分析

企業が従業員の健康に投資し、活力のある会社づくりを目指す「健康経営」。 しかし、その取り組みには、いくつかの課題が存在します。 今回は、健康経営を進めるにあたって企業が直面する可能性のある代表的な課題を3つの視点から詳しく解説していきます。

従業員の健康状態の現状

健康経営を成功させるためには、まず自社の従業員の健康状態を把握することが重要です。 ところが、従業員の健康状態を把握すること自体が難しいケースも少なくありません。

例えば、従業員に健康診断を受診させるだけでは不十分です。健康診断の結果、メタボリックシンドロームや高血圧などの指摘を受けても、自覚症状がないために放置してしまう従業員もいるかもしれません。

また、メンタルヘルスの問題は、目に見えにくいため、企業側が把握するのが難しい場合があります。長時間のデスクワークや厳しいノルマ、職場の人間関係など、様々な要因からストレスを抱え、うつ病を発症してしまうケースも少なくありません。

さらに、健康状態に関する情報を収集できたとしても、それをどのように分析し、健康経営に活かすかという点も課題として挙げられます。従業員の年齢や性別、職種、勤務形態などの属性に合わせた健康課題を分析し、効果的な対策を立てる必要があります。

経営者と従業員の認識のギャップ

健康経営を推進する上で、経営者と従業員の間で健康に対する意識や考え方にギャップがある場合があります。

経営者は、従業員の健康が企業の生産性や業績向上に繋がると認識し、健康経営への投資を積極的に行うべきと考えているかもしれません。企業の成長には、従業員一人ひとりの能力発揮が不可欠であり、そのためには、従業員が心身ともに健康であることが重要だからです。

しかし、従業員の中には、健康経営の取り組みを「会社に自分のプライベートを干渉されている」と感じる人もいるかもしれません。例えば、会社から運動や食事の指導を受けたり、プライベートな時間を使って健康に関するセミナーに参加することを義務付けられたりすると、抵抗を感じる人もいるでしょう。

このような認識のギャップは、健康経営に対するモチベーションの低下や取り組みの効果を半減させる可能性があります。

実際に、中小企業を対象としたアンケート調査では、経営者と健康づくり担当者、従業員の間で健康経営の目的を共有することの重要性が示唆されています。健康経営を成功させるためには、経営者と従業員の認識を一致させ、共通の目標に向かって協力していく体制作りが重要になります。

取り組みの効果を測定する難しさ

健康経営の課題として、取り組みの効果を測定することが難しいという側面も挙げられます。

例えば、健康経営の一環として、従業員向けに運動機会を提供したり、健康的な食事を提供する食堂を導入したりする企業が増えています。しかしこれらの取り組みが、従業員の健康状態の改善や企業の生産性向上にどの程度貢献しているかを正確に測ることは容易ではありません。

健康状態の改善は、運動や食事などの生活習慣改善だけでなく、個人の体質や遺伝的要因、医療機関へのアクセス状況など、様々な要因に影響を受けるため、健康経営の取り組みの効果を明確に切り分けることは難しいです。

また、健康経営は長期的な視点に立った取り組みであるため、短期間で効果が表れにくいという特徴があります。そのため、効果が見えにくく、モチベーションが維持できない、投資を継続するべきか判断に迷うといったケースも出てきます。

アンケート調査による健康経営の課題把握方法

従業員の健康は、企業の生産性や業績に大きく影響します。健康経営に取り組むためには、まず自社の課題を、自分の体の状態を知るために健康診断を受けるように、しっかりと把握することが重要です。しかし、いざ健康経営を始めようと思っても、どこから手をつければよいか迷うこともあるでしょう。

そんな時、従業員の健康状態や意識、職場環境に関する課題を明らかにする有効な手段となるのがアンケート調査です。健康診断を受けて具体的な数値で健康状態を把握するように、アンケート調査を通じて、従業員の健康状態に関する現状を把握することができます。

アンケートの設計と質問例

アンケートを作成する際には、家の間取りを決めるように、目的を明確にし、適切な質問項目を設定することが重要です。健康状態、生活習慣、職場環境など、多岐にわたる側面から質問を検討しましょう。この時、質問項目が網羅的で具体的であるほど、より詳細な現状把握が可能になります。

【質問例】

  • 健康状態に関する質問
    • 現在の健康状態について、あてはまるものを選んでください。(良い・あまり良くない・良くない)
    • 過去1年間で、医師の診察や治療を受けたことがありますか。(はい・いいえ)
    • 睡眠時間について、あてはまるものを選んでください。(十分に取れている・少し不足している・不足している)
  • 生活習慣に関する質問
    • 朝食を毎日食べますか。(はい・いいえ)
    • 週に2回以上、運動習慣はありますか。(はい・いいえ)
    • 1日あたりの平均喫煙本数はどのくらいですか。(本)
  • 職場環境に関する質問
    • 仕事の内容や量に満足していますか。(満足・やや満足・どちらでもない・やや不満・不満)
    • 職場の人間関係に問題を感じていますか。(はい・いいえ)
    • 仕事のストレスをどのように解消していますか。(具体的に記述)

上記はあくまで一例であり、業種や企業規模、従業員の属性に合わせた質問項目を設定することが重要です。例えば、デスクワーク中心の企業であれば、運動不足や長時間労働に関する質問項目を重点的に盛り込むなど、それぞれの企業に合ったアンケート設計が重要になります。

調査対象の設定とサンプルサイズ

アンケート調査を実施する際には、誰に料理を振る舞うかを決めるように、誰を対象とするかを明確にする必要があります。全従業員を対象とする場合や、部署や役職ごとに抽出する場合など、目的や状況に合わせて適切な調査対象を設定します。例えば、特定の部署内で健康問題を抱えている従業員が多いといった場合には、その部署を重点的に調査対象とするなどの工夫が考えられます。

サンプルサイズが小さすぎると、調査結果の精度が低くなる可能性があります。反対に、サンプルサイズが大きすぎると、調査費用や時間などの負担が大きくなってしまいます。適切なサンプルサイズは、統計的な手法を用いて算出することができます。

結果の分析方法と活用

アンケート調査の結果は、集計・分析することで、集めた食材を調理して美味しい料理にするように、初めて意味を持ちます。例えば、健康状態に関する質問に対して「良くない」と回答した従業員の割合を算出したり、職場環境に関する質問と健康状態に関する質問の相関関係を分析したりすることで、課題を具体的に把握することができます。

アンケート結果に基づいて、以下の様な対策を立てることができます。

  • 従業員の健康状態が悪いという結果が出た場合:健康診断の受診率向上のための啓蒙活動や、健康相談窓口の設置などの対策を検討する。
  • 従業員の運動不足が課題として挙げられた場合:運動機会の提供や、運動習慣に関するセミナー開催などを検討する。
  • 職場環境に関する不満が多いという結果が出た場合:労働時間の削減や、ストレスチェック制度の導入などを検討する。

アンケート調査は、課題を把握するための手段の一つに過ぎません。重要なのは、調査結果を経営戦略に反映し、従業員が健康に働ける職場環境づくりに取り組むことです。経営者と健康づくり担当者、従業員がお互いに健康経営の意義を共有し、まるで一つの船に乗り込む船員のように、協力していく体制を構築していくことが大切です。

健康経営の改善に向けた施策と実践方法

健康経営に取り組む企業が増えている一方で、「具体的にどんな施策を実施すればいいのかわからない」「効果的な施策の進め方がわからない」という悩みを持つ方も多いのではないでしょうか?

まるで、健康を維持するために運動しようと思っても、「どんな運動をすればいいのか」「どのくらいの頻度でやればいいのか」が分からず、結局何も始められないのと同じ状況と言えるかもしれません。

ここでは、健康経営の改善に向けた具体的な施策と、その実践方法について、わかりやすく解説していきます。従業員の健康増進、企業の生産性向上、ひいては企業価値向上に向けて、ぜひ本記事をご活用ください。

まとめ

健康経営は、従業員の健康を促進し、企業の成長に繋げる取り組みです。しかし、健康経営には従業員の健康状態の把握、経営者と従業員の意識のギャップ、取り組みの効果測定など、多くの課題が存在します。

アンケート調査は、従業員の健康状態、生活習慣、職場環境など、多岐にわたる課題を明らかにする有効な手段です。アンケートを通じて、従業員のニーズを把握し、効果的な施策を検討できます。

健康経営の改善施策には、生活習慣病予防、メンタルヘルス対策、ワーク・ライフ・バランスの推進などがあります。企業は、従業員の健康課題を把握し、ニーズに合わせた施策を実行することで、従業員の健康増進と企業の成長を実現できます。

健康経営を成功させるには、社内への浸透とコミュニケーションが重要です。従業員一人ひとりが健康経営の意義を理解し、主体的に取り組むことで、より効果的な取り組みとなるでしょう。

産業医/健康経営エキスパートアドバイザー 角田拓実