あなたは、長時間のパソコン作業で、肩や腰に痛みを感じたことはありませんか?

現代のオフィスワーカーにとって、肩こりや腰痛は、もはや当たり前の悩みかもしれません。 健康経営という言葉が注目される中、企業は従業員の健康を守るための様々な取り組みを行っています。

その中でも、近年注目を集めているのが「バランスボール」です。 バランスボールをオフィスに導入することで、従業員の健康を促進し、生産性向上や企業イメージの向上に繋がるという事例も報告されています。

この記事では、健康経営におけるバランスボール導入のメリット・デメリット、導入事例、費用対効果、そして法律や規制について詳しく解説していきます。

バランスボール導入のメリット・デメリットとは

バランスボール導入には、メリットだけでなく、デメリットも存在します。導入を検討する際には、メリット・デメリットをよく理解した上で、自社にとって本当に必要かどうかを判断することが大切です。

バランスボール導入のメリット

バランスボールを職場に導入することで得られるメリットとしては、次のようなものがあります。

  • 姿勢がよくなる: バランスボールは、不安定なため、座っている間も常に姿勢を調整しようとする力が働きます。その結果、自然と背筋が伸び、良い姿勢を保つことができるようになります。バランスを保つために体幹が自然と鍛えられるイメージです。
    • 例えば、デスクワークの多い事務職の方であれば、1時間に1回程度、バランスボールに座ってストレッチをすることで、腰痛や肩こりの予防だけでなく、集中力アップや気分転換にも繋がると考えられます。
  • 運動不足解消: バランスボールに座るだけで、普段使わない筋肉を使うことになり、軽い運動効果が期待できます。これは、バランスボールの上でじっと座っているだけでも、まるでバランスボードに乗っているかのように、体幹の筋肉を常に使っている状態になるためです。
    • 例えば、営業職の方であれば、外回りから帰ってきた際に、バランスボールに座ってデスクワークをすることで、移動中の疲れを癒しながら、同時に運動不足も解消できるという一石二鳥の効果が期待できます。

バランスボール導入のデメリット

バランスボールを職場に導入することで生じる可能性のあるデメリットとして、次のようなものがあります。

  • 集中力が途切れる: バランスボールは、椅子と比べて不安定なため、集中力が途切れてしまう可能性があります。集中して作業に取り組みたい人にとっては、この不安定さが逆効果になってしまう可能性も考えられます。
    • 例えば、繊細な作業の多いデザイナーの方や、長時間のプログラミングが必要なエンジニアの方にとっては、バランスボールの不安定さが集中力の妨げになってしまう可能性もあるでしょう。
  • 転倒のリスク: バランスボールは、不安定なため、転倒してしまうリスクがあります。特に、使い始めの頃はバランスを崩しやすく、転倒のリスクが高まります。
    • 例えば、高齢者の従業員の方や、持病をお持ちの方にとっては、転倒のリスクはより高くなるため、注意が必要です。転倒のリスクを最小限にするためには、バランスボールの周囲に物が無いスペースを確保したり、転倒時に備えて周囲にクッションなどを置くなどの対策も有効です。
    • また、バランスボールから降りる際や、立ち上がる際にも注意が必要です。慌てずに、周りの人に支えてもらうなど、安全を確保してから行うようにしましょう。

職場にバランスボールを導入する具体的な方法と手順

ただバランスボールを置くだけでは、効果的な導入とは言えません。そこで、今回は、職場にバランスボールを導入する際の具体的な方法と手順について、詳しく解説していきます。

バランスボールの選び方とサイズについて

バランスボールを選ぶ際には、サイズが非常に重要です。自分に合ったサイズのバランスボールを使わないと、姿勢が悪くなったり、体に負担がかかってしまう可能性があります。バランスボールのサイズ選びは、ちょうど良い高さの椅子を選ぶのと同じくらい重要です。小さすぎる椅子に座ると、膝が上がりすぎてしまい、太ももの裏側が圧迫されてしまいます。逆に、大きすぎる椅子に座ると、足が床に届かず、落ち着かない姿勢になってしまいます。バランスボールも同じように、自分の身長に合ったものを選ぶようにしましょう。

バランスボールのサイズを選ぶ際には、身長を基準にすることが多いですが、実際に椅子に座った時の膝の角度が90度くらいになるかを確認するのがおすすめです。小学校で使う机と椅子の関係と同じですね。机が高すぎたり、低すぎたりすると、姿勢が悪くなってしまい、集中力が続かなくなってしまいます。バランスボールも、自分に合ったサイズを選ぶことで、快適に過ごすことができます。

バランスボールの素材や機能にも注目してみましょう。PVC素材は耐久性が高く、価格も比較的リーズナブルです。一方、TPE素材は環境に優しく、ゴムのような弾力性があるのが特徴です。ゴムアレルギーの方はこちらを選びましょう。また、転がり防止機能が付いたものや、空気入れがセットになったものなど、さまざまな種類がありますので、職場の環境や好みに合わせて選ぶと良いでしょう。

バランスボール導入に関わる安全対策とリスク管理

バランスボール導入において、安全対策は非常に重要です。バランスボールは、その不安定な形状から、転倒のリスクが伴います。従業員が安心してバランスボールを使用できるよう、転倒防止対策は必須です。

具体的には、以下のような対策を検討する必要があります。

  • 転倒防止対策: バランスボールの下に、滑り止め効果のあるマットを敷くことで、バランスを崩した際の衝撃を和らげ、転倒のリスクを軽減できます。また、バランスボールが転がってしまうのを防ぐために、専用のストッパーを設置することも有効です。
  • 使用方法の指導: バランスボールを安全に、そして効果的に使用するためには、正しい使い方を従業員に指導する必要があります。バランスボールに座る際には、背筋を伸ばし、お腹に軽く力を入れることが大切です。猫背になったり、逆に反り腰になったりしないよう、正しい姿勢を意識づけましょう。長時間バランスボールに座り続けることは、身体への負担が大きくなってしまう可能性があります。1時間おきに5分程度の休憩時間を設けるなど、無理なく使用できるよう、休憩時間の設定を促しましょう。
  • 定期的な点検: バランスボールは、使用頻度や保管状況によって、劣化や損傷が生じる可能性があります。定期的に点検を行い、空気漏れや破損がないかを確認しましょう。適切な空気圧を維持することも重要です。空気圧が低いと、バランスボールが変形しやすくなり、転倒のリスクが高まります。
  • 緊急時の対応: 万が一、バランスボール使用中に事故が発生した場合に備え、緊急時の対応方法を検討しておくことが重要です。負傷時の対応としては、従業員が負傷した場合、速やかに適切な処置を行う必要があります。応急処置の方法や、医療機関への連絡体制などを事前に整備しておきましょう。また、事故報告体制の整備も必要です。事故が発生した場合には、適切な報告体制を整備することで、再発防止策を検討することができます。

これらの対策を講じることで、従業員が安心してバランスボールを使用できる職場環境を実現できるでしょう。バランスボールは、正しく使用すれば、従業員の健康増進に大きく貢献する可能性を秘めています。

まとめ

健康経営の一環として、バランスボールを職場に導入する企業が増えています。バランスボールは、姿勢改善や運動不足解消などのメリットがある一方、集中力低下や転倒のリスクといったデメリットも存在します。導入を検討する際は、従業員の体格に合ったサイズ選びや、転倒防止対策、使用方法の指導など、安全対策を徹底することが重要です。適切に導入すれば、従業員の健康増進や企業イメージ向上、生産性向上といった効果が期待できます。費用対効果や法律、導入事例などを参考に、自社にとって最適な選択をするようにしましょう。

産業医/健康経営エキスパートアドバイザー 角田拓実

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参考文献

  1. 藤林真美, 田中利明, 横山慶一, 石井千恵, 森谷敏夫. バランスボールが及ぼす心理動態の急性効果. スポーツ精神医学. 2009;6:30-35.
  2. 門馬淳. バランスボールで健康対策 自治体で椅子代わりに試行. 職場スペースなどに課題.地方行政 (11237), 13-, 2023-09-04
  3. 服部由季夫. The influence of balance training to cerebral function. 星槎大学紀要(Seisa Univ. Res. Bul.)共生科学研究. 2016;No.12:59-71.