あなたは、従業員の健康が企業の成長に直結する時代だということをご存知ですか? 日本では、企業が従業員の健康に戦略的に取り組む「健康経営」が注目されています。 健康経営を推進するために、企業は様々な組織体制で健康管理に取り組んでいますが、 あなたの会社ではどのような体制で、誰が責任を持って健康管理を行っているでしょうか?
この記事では、企業における健康経営の担当部署の役割や責任、具体的な業務内容から、 組織体制や他部署との連携まで、現役産業医が分かりやすく解説します。 ぜひ、あなたの会社と比較しながら読み進めてみてください。
健康経営の担当部署の役割と責任
企業は従業員の健康を守る義務があります。企業が成長していくためには、そこで働く従業員一人ひとりの健康が欠かせません。企業は、健康を経営という視点で捉え、戦略的に取り組むことが求められています。健康経営は、単に従業員の健康を守るだけでなく、企業の生産性向上や業績向上にもつながると考えられています。この健康経営を推進していくために、企業内には専門の部署が設置されるケースが増えてきました。
健康経営の担当部署とは?
健康経営の担当部署とは、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、組織全体の健康増進を目的とした活動を行う部署です。会社全体の健康状態を把握し、健康リスクの高い従業員に対しては、適切な対策を講じる必要があります。「健康管理室」や「健康推進室」といった名称の部署もあれば、「人事部」や「総務部」が担当する場合もあります。会社の規模や健康経営への取り組み方によって、担当部署の名称や組織体制はさまざまです。
健康経営の担当部署の役割と責任
健康経営の担当部署の役割は、会社全体の健康増進計画を立案し、実行することです。 具体的には、次のような役割と責任を担います。
- 健康経営の推進計画の策定と実行支援: 会社全体の健康状態を分析し、健康経営の目標や具体的な施策を盛り込んだ計画を立てます。従業員の健康状態を分析するにあたっては、健康診断の結果を年齢や性別に応じて適切に分析する必要があります。計画に基づき、各部署と連携しながら実行していきます。
- 健康課題の特定と分析: 従業員の健康診断の結果や、アンケート調査などを通して、会社全体の健康課題を明らかにします。例えば、生活習慣病の予防やメンタルヘルスの改善など、どのような課題に重点的に取り組むべきかを分析します。例えば、デスクワーク中心の部署では、運動不足による生活習慣病や、長時間労働によるメンタルヘルス不調のリスクが高くなります。
- 従業員の健康意識向上のための啓蒙活動: 健康に関するセミナーやイベントを開催したり、社内 intranet やメールマガジンなどを通して、健康に関する情報を発信したりすることで、従業員の健康意識の向上を図ります。例えば、メタボリックシンドロームのリスクが高い従業員に対しては、食生活や運動習慣に関するセミナーを開催したり、個別相談に応じたりすることで、健康意識の向上を促します。
- 健康増進プログラムの企画・実施: 運動習慣の促進や食生活の改善、禁煙支援、メンタルヘルス対策など、従業員の健康増進につながるさまざまなプログラムを企画・実施します。
- 健康に関するデータの収集・分析: 健康診断の結果や、健康増進プログラムの実施状況などのデータを収集・分析し、健康経営の効果を検証します。その結果を踏まえ、改善策を検討したり、新たな取り組みを企画したりします。
健康経営の担当部署の具体的な業務内容
健康経営の担当部署は、従業員の健康を守る「会社の保健室」や「健康の司令塔」のような存在といえます。具体的な業務内容としては、下記のようなものがあります。
- 健康診断の実施と結果の分析・フォロー: 年に一度の定期的な健康診断の実施はもちろん、結果に基づいた医師による保健指導や、再検査の勧奨などを行います。
- ストレスチェックの実施と結果に基づいた職場環境改善: 従業員のストレス状態を把握し、必要に応じて医師による面接指導や、職場環境の改善などを行います。
- 健康相談窓口の設置: 従業員が気軽に健康に関する相談をできる窓口を設け、専門スタッフによるアドバイスや、医療機関への紹介などを行います。
- 健康増進プログラムの企画・運営: 運動機会の提供や、健康的な食事を提供する社員食堂の運営、禁煙サポートなど、従業員の健康増進を目的としたさまざまな取り組みを行います。
- 社内イベント・研修の実施: 健康に関する知識や、生活習慣改善のためのスキルを習得するためのセミナーや、ワークショップなどを開催します。
これらの業務を通して、従業員が健康でイキイキと働ける職場環境づくりを目指します。
健康経営の担当部署の組織体制と配置
会社によって、健康経営に取り組む部署や担当者は実に様々です。これは、会社の規模や健康経営に対する力の入れ具合によって、最適な組織体制が異なるからです。
例えば、従業員1000人を超えるような大企業では、健康経営専用の部署を設け、専門の担当者を配置するケースが多く見られます。
一方、従業員50人程度の中小企業では、専任の部署を設ける余裕がない場合も多いです。このような場合は、人事部や総務部の担当者が、本来の業務に加えて健康経営も担当することが多いです。
具体的には、健康経営の担当部署の組織体制は、大きく3つのパターンに分けられます。
独立した専任部署で統括している
企業の中には、健康経営に特化した専任の部署を設けている場合があります。会社の規模が大きかったり、従業員の健康管理に特に力を入れている企業によく見られます。
例えば、従業員の健康状態を細かく分析する専門家、健康増進のための運動や食事のプログラムを企画・運営する専門家、メンタルヘルスのケアを行う専門家、さらには、職場環境を改善する専門家などが集まり、それぞれの専門知識を活かして、従業員の健康をサポートします。
この体制のメリットは、専門部署が一元的に健康経営を推進することで、施策の効果を最大化できること、責任の所在が明確になること、専門知識を持った人材を育成しやすいことなどが挙げられます。
人事(本)部内等の専任の部署で統括している
健康経営を推進する部署として、人事部内に専任の部署を設けるケースもあります。従業員の採用から育成、健康管理までを一貫して行うことで、従業員の健康と企業の成長を結び付ける狙いがあります。
例えば、従業員の健康状態に合わせた人事制度を設計したり、健康増進につながる研修プログラムを開発したりします。これは、病院で例えると、患者の症状に合わせて、医師、看護師、理学療法士などが連携して治療にあたるチーム医療に似ています。
この体制のメリットは、人事業務と連携しやすいこと、従業員の健康状態を把握しやすいこと、健康経営に対する意識を社内に浸透させやすいことなどが挙げられます。
専任の部署はないが、人事部内等に統括する担当者を置いている
中小企業など、企業によっては、専任の部署を設けずに、人事部や総務部の担当者が健康経営を兼務している場合があります。
この体制では、健康経営の推進担当者が、他の業務と並行して、健康経営に関する業務を行うことになります。
例えば、健康診断の結果管理、ストレスチェックの実施、健康相談窓口の設置、健康情報の提供などを行います。これは、街の診療所で、医師が診察だけでなく、受付や会計などの業務も兼任している状況と似ています。
この体制のメリットは、コストを抑えられること、柔軟な対応がしやすいことなどが挙げられます。しかし、担当者の負担が大きくなってしまうことや、専門知識を持つ人材が不足してしまうことが課題となる可能性があります。
健康経営の担当部署と他の部署との連携
健康経営は、企業が従業員の健康に配慮することで、結果的に生産性向上や企業価値向上を目指す経営手法です。従業員一人ひとりが健康でイキイキと働ける環境を作るためには、会社全体で取り組む必要があります。
そのため、健康経営の担当部署は、様々な部署と連携しながら施策を進めていくことが重要です。ここでは、連携が特に重要な部署である、人事部、総務部、そして経営層との連携について、具体的に説明していきます。
健康経営の担当部署と人事部の連携
健康経営の担当部署と人事部は、従業員の健康と働きがいの向上に向けて、二人三脚で進むべき関係と言えます。例えば、健康経営施策を人事制度に組み込むことで、従業員のモチベーション向上や定着率向上につなげることができます。
具体的な連携事例としては、以下のようなものがあります。
- 健康状態を反映した人事評価: 健康診断の結果を単に数値で見るのではなく、過去のデータと比較したり、生活習慣アンケートと照らし合わせたりすることで、従業員一人ひとりのリスクや努力を評価できるようになります。例えば、以前は高血圧で服薬していた人が、運動習慣を継続することで薬を減らすことができた、といった場合は、数値以上の努力を評価できます。
- 健康増進のための休暇制度: 健康診断の受診や健康増進プログラムへの参加を促すために、特別休暇を付与する企業が増えています。従来の休暇取得の考え方にとらわれず、従業員の健康を会社全体でサポートする姿勢を示すことが重要です。
- 健康に関する研修: ストレスマネジメントや生活習慣病予防など、健康に関する研修を人事部と共同で企画・実施することで、従業員の健康に対する意識を高めることができます。例えば、管理職向けにメンタルヘルス対策の研修を実施することで、部下のメンタルヘルスの不調にいち早く気づき、適切な対応を取るなどのスキルを身につけることができます。
このように、人事部と連携することで、従業員一人ひとりの健康状態を把握し、それぞれの状況に合わせてきめ細かい対応をすることができます。
健康経営の担当部署と総務部の連携
健康経営の担当部署と総務部は、従業員が健康に働きやすいオフィス環境を作っていく必要があります。総務部は、オフィス環境の改善や健康に関する設備の整備などを担当することが多く、健康経営を推進する上で重要な役割を担っています。
具体的な連携事例としては、以下のようなものがあります。
- オフィス環境の改善: 事務所内の照明を、目に優しく疲労を軽減できるものに変えたり、換気をこまめに行うなど、従業員が働きやすい環境を作ることは、健康経営の基礎となります。例えば、集中しやすい環境作りのために、執務スペースとは別に、リラックスできるリフレッシュルームなどを設置するのも良いでしょう。
- 健康に関する設備の導入: 昇降デスクを導入することで、従業員は自身の体調や気分に合わせて、立って作業することも、座って作業することも可能になります。また、マッサージチェアを導入することで、従業員は業務の合間にリフレッシュすることができ、心身の疲労を軽減できます。
- 健康イベントの開催: 総務部が主催する社内イベントに、健康に関するコンテンツを盛り込むことで、従業員の健康に対する意識を高めることができます。例えば、ウォーキングイベントやヨガ教室などを開催することで、従業員同士の交流を深めながら、健康増進を図ることができます。
このように、総務部と連携することで、従業員が健康的に働けるオフィス環境を作っていくことができます。
健康経営の担当部署と経営層の連携
健康経営を推進する上で最も重要なのは、経営層の理解とコミットメントです。 経営層が旗振り役となり、健康経営を全社的な取り組みとして位置付けることで、初めて効果的な施策を実施することができます。
具体的な連携としては、以下のようなものがあります。
- 健康経営に関する目標設定と予算確保: 経営層が率先して健康経営の目標を設定し、その達成のために必要な予算を確保することで、従業員全体の意識改革を促進することができます。
- 健康経営に関する意思決定への関与: 健康経営に関する重要な意思決定には、経営層も積極的に関与することで、施策の実行力を高めることができます。
- 従業員へのメッセージ発信: 経営層から、健康経営の重要性や取り組みへの期待について、従業員に向けてメッセージを発信することで、従業員の意識改革を促し、健康経営への参加を促進することができます。
経営層の積極的な関与は、従業員の意識改革を促し、健康経営の成功に大きく貢献します。
まとめ
健康経営の担当部署は、企業規模や取り組み方によって名称や組織体制が異なり、「健康管理室」「健康推進室」といった専任部署や、人事部・総務部が兼任する場合もある。役割は、健康経営の計画策定・実行支援、健康課題の特定と分析、従業員への啓蒙活動、健康増進プログラムの企画・実施、健康データの収集・分析など。企業は、従業員の健康状態を把握し、健康診断の結果分析、ストレスチェック、健康相談窓口設置、健康増進プログラムなどを実施することで、従業員が健康で生き生きと働ける職場環境づくりを目指していく。
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