健康経営」という言葉は耳にする機会が増えましたが、具体的にどのような取り組みか、イメージしづらい方も多いのではないでしょうか?特に中小企業にとって、健康経営は会社の成長を大きく左右する重要な要素です。従業員一人ひとりの健康は、会社全体の生産性や業績に直結するからです。従業員が病気で休んでしまったり、ストレスを抱えてパフォーマンスが低下したりすれば、会社全体に悪影響が及んでしまいます。
しかし、中小企業では、大企業のように豊富な資金や人材を健康経営に投じることが難しいのが現状です。そこで、本記事では、中小企業でも実践可能な健康経営の導入手順や具体的な施策、そして成功事例について解説していきます。従業員の健康を守ることは、会社を守る砦であり、未来を拓く鍵となります。ぜひ、本記事を参考にして、自社に合った健康経営を始めてみてください。
健康経営とは
「健康経営」という言葉を耳にする機会が増えましたが、具体的にどのような取り組みか、イメージしづらい方もいるかもしれません。 健康経営は、一言で表すと「従業員の健康が会社の元気につながる」という考え方です。
従業員の健康に配慮した職場環境や制度を整えることは、一見、会社の負担が増えるように思えるかもしれません。 しかし実際には、健康的な職場環境によって従業員のモチベーションや集中力が向上し、結果として企業の生産性向上や業績アップ、ひいては企業全体の価値向上につながることが、様々な研究結果で明らかになっています。
例えば、ある企業では、従業員の運動不足解消のために、オフィスに軽い運動ができるスペースを設けたり、オンラインフィットネスプログラムの割引制度を導入したところ、従業員の健康状態が改善されただけでなく、仕事の集中力や生産性が向上し、離職率も低下したという結果が出ています。
このように、健康経営は、従業員と会社、両方がメリットを享受できる、まさに「win-win」の関係を築くための投資と言えるでしょう。
健康経営の概要と定義
健康経営は、2000年代に入ってから日本国内でも注目され始め、2015年には経済産業省が「健康経営優良法人認定制度」を創設するなど、国をあげてその普及が推進されています。
この制度では、従業員の健康増進に積極的に取り組む企業を「健康経営優良法人」として認定し、その取り組みを社会的に評価することで、企業の健康経営への意識向上を図っています。
健康経営の定義は、企業によって異なってきますが、一般的には「従業員の健康を経営資源と捉え、戦略的に健康増進に取り組むこと」とされています。
中小企業における健康経営の重要性
特に、中小企業にとって健康経営は、企業の持続的な成長を支える上で、非常に重要な要素となります。
中小企業は、大企業に比べて経営資源が限られていることが多く、従業員の数が少ない分、一人ひとりの従業員の健康状態が、企業の業績に与える影響が大きくなります。
例えば、従業員が病気やケガで長期休暇を取らざるを得なくなった場合、他の従業員への負担が増加し、業務が滞ってしまう可能性があります。 また、新しい人材を採用するにも、時間や費用がかかり、企業にとって大きな負担となるでしょう。
健康経営は、このようなリスクを未然に防ぎ、従業員の健康を守りながら、企業の安定的な成長を図るための重要な取り組みと言えるでしょう。
健康経営のメリットと効果
健康経営に取り組むことで、企業は様々なメリットと効果を得ることができます。 従業員にとっても、健康的な職場環境で働くことは、心身の健康を維持し、仕事とプライベートのバランスを保つ上で、大きなメリットとなります。
健康経営の具体的なメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
従業員側のメリット
- 健康状態の改善:生活習慣病の予防や改善、メンタルヘルスの向上など
- 仕事のパフォーマンス向上:集中力や創造性の向上、ストレス軽減など
- モチベーション向上:会社へのエンゲージメントや帰属意識の向上など
企業側のメリット
- 生産性向上:従業員の欠勤率や離職率の低下、業務効率の向上など
- 企業イメージ向上:優秀な人材の確保、顧客からの信頼感向上など
- コスト削減:医療費負担の軽減、採用・教育コストの削減など
健康経営は、これらのメリットを従業員と企業の両方が享受できる、持続可能な社会を形成していく上でも、非常に重要な取り組みと言えるでしょう。
健康経営を中小企業で実現するには?
健康経営と聞くと、大企業が取り組むイメージを持つ方もいるかもしれません。確かに、潤沢な資金や人員を元に、充実した福利厚生や設備投資を行うイメージは想像しやすいでしょう。しかし、従業員の健康は、企業の規模に関わらず、企業の成長を大きく左右する、とても大切なものです。
中小企業では、従業員一人ひとりの頑張りが、会社全体に与える影響が大きいため、むしろ、健康経営は大企業以上に重要と言えるかもしれません。中小企業において、従業員の健康を守ることは、会社を守る砦であり、未来を拓く鍵となるのです。
例えば、従業員が病気で休んでしまうと、その穴を埋めるために他の従業員に負担がかかり、業務効率が低下してしまいます。また、従業員のモチベーションや集中力が低下することで、仕事の質や生産性が低下する可能性もあります。中小企業にとって、このような状況は、業績悪化に直結する、深刻な問題になりかねません。
健康経営の導入手順と具体的な方法
では、実際に中小企業が健康経営を始めるには、どのように進めていけば良いのでしょうか。重要なのは、経営者自身が「従業員の健康を守ることは、会社を成長させるための投資である」という意識を持つことです。
その上で、従業員を巻き込みながら、会社全体で健康に取り組む体制を作っていくことが大切です。具体的な手順としては、以下の3つのステップで進めていきましょう。
ステップ1:現状分析と目標設定
まずは、従業員の健康状態や、職場環境に関する課題を把握することが重要です。アンケート調査やストレスチェックなどを実施することで、従業員の健康状態を把握し、健康経営に取り組むための課題を明確化します。
例えば、従業員へのアンケートで「最近、睡眠不足だと感じますか?」「仕事で強いストレスを感じますか?」といった質問項目を設定することで、従業員の健康状態を把握することができます。
その上で、自社の課題に合わせた目標を設定します。目標は、従業員の健康改善だけでなく、生産性の向上や、企業イメージの向上など、具体的な目標を設定することが重要です。
目標設定の例としては、「従業員の平均残業時間を1日30分短縮する」「従業員の健康診断の受診率を90%に引き上げる」といった具体的な数値目標を設定します。
ステップ2:具体的な施策の実施
目標達成のために、具体的な施策を実施します。健康経営の施策は、従業員の健康状態や、職場環境によって様々ですが、例えば、次のようなものがあります。
分野 | 具体的な施策例 |
---|---|
食生活 | 社員食堂のメニュー改善、健康的な食事に関するセミナー開催 |
運動 | 運動機会の提供(スポーツジムとの提携など)、オフィス内の運動促進 |
休養 | 年次有給休暇の取得促進、残業時間の削減 |
メンタルヘルス | ストレスチェックの実施、相談窓口の設置 |
ステップ3:評価と改善
実施した施策の効果を検証し、必要に応じて改善を行います。健康経営は、継続的に取り組むことが重要です。
健康経営に取り組むための支援機関やサービス
健康経営を推進していくには、専門的な知識やノウハウが必要となる場合もあります。しかし、中小企業では、産業医や保健師などの専門スタッフが不足している場合も多いでしょう。
中小企業における労働衛生の実践報告の多くは大企業をフィールドとした研究であり、中小企業を対象とした報告は少ないという現状があります。
そこで、外部の支援機関やサービスを活用するのも有効な手段です。
支援機関・サービス例
- 健康保険組合:加入している健康保険組合では、健康経営に関するセミナーや、相談窓口を設けている場合があります。
- 民間企業のサービス:健康経営に関するコンサルティングや、健康管理システムの提供など、様々なサービスを提供している民間企業もあります。
これらの支援機関やサービスを活用することで、専門家のアドバイスを受けながら、自社に最適な健康経営を推進していくことができます。
健康経営の効果測定と成功事例
健康経営に取り組むことは、企業にとって、まるで植物に水をやるように、従業員の成長と会社の発展に繋がっていく素晴らしい投資と言えます。 それでは、実際に健康経営はどのような効果をもたらし、どのようにその効果を測るのでしょうか? 今回は、中小企業における成功事例も交えながらご紹介していきます。
労働生産性の向上とプレゼンティーイズムの低下
健康経営は、従業員一人ひとりの健康状態を向上させることで、会社全体の生産性向上に繋がります。 例えば、従業員の健康増進のために、オフィス環境の改善や、健康的な食事を提供する社員食堂を導入したとします。 すると、従業員は活力を維持しやすくなるため、集中力やモチベーションが向上し、結果として労働生産性の向上に繋がるのです。
さらに、健康経営は、「プレゼンティーイズム」の低下にも効果が期待できます。 プレゼンティーイズムとは、風邪気味や軽い頭痛など、体調が万全ではない状態でも無理に出勤してしまうことを指します。 まるで、自転車のタイヤに空気が入っていない状態で走り続けるように、パフォーマンスを低下させ、長期的には大きな損失に繋がる可能性があります。
健康経営を通して従業員の心身の健康をサポートすることで、従業員は無理せず休養を取ることができるようになり、結果としてプレゼンティーイズムを減らし、生産性を向上させることができるのです。
医療費削減と従業員の健康指標の改善
健康経営は、企業の医療費削減にも大きく貢献します。 従業員の健康状態が改善することで、病気の予防や早期発見に繋がり、結果として医療費の削減に繋がるからです。
具体的な例としては、生活習慣病予防のためのセミナーや、運動習慣を促進するためのプログラムを導入することが挙げられます。 これらの取り組みを通して、従業員の健康意識を高め、生活習慣病のリスクを減らすことができます。 健康経営は、従業員の健康指標の改善にも効果を発揮します。 定期的な健康診断や健康相談の実施、禁煙サポート、メンタルヘルス対策などを通して、従業員の健康状態を継続的に把握し、必要な対策を講じることで、健康指標の改善を図ることができるのです。
中小企業における健康経営の成功事例
健康経営は、大企業だけの取り組みではありません。 中小企業でも、その企業規模に合わせた取り組みを行うことで、大きな成果をあげることができます。
例えば、従業員数が50人未満の中小企業の場合、毎朝のラジオ体操や、月に一度のウォーキングイベントなど、従業員同士のコミュニケーションを促進するための取り組みが有効です。 このような取り組みを通して、従業員同士のコミュニケーションが活性化し、チームワークが向上することで、業務効率の改善に繋がります。
また、従業員のストレス軽減を目的として、オフィス環境の改善に取り組むことも効果的です。 例えば、観葉植物を置いたり、リラックスできるスペースを設けるなどの工夫をすることで、従業員のストレスが軽減され、集中力や創造性を向上させることができます。
これらの事例から、中小企業においても、健康経営は従業員の健康増進だけでなく、企業の業績向上にも大きく貢献する可能性があると言えるでしょう。
まとめ
健康経営は、従業員の健康を経営資源と捉え、戦略的に健康増進に取り組むことで、従業員と企業双方にメリットをもたらす取り組みです。特に中小企業では、従業員の健康状態が企業の業績に大きく影響するため、健康経営は企業の持続的な成長を支える上で非常に重要となります。
健康経営を導入する手順としては、まず従業員の健康状態や職場環境に関する課題を把握し、目標設定を行います。次に、食生活、運動、休養、メンタルヘルスなど、具体的な施策を実施します。最後に、実施した施策の効果を検証し、必要に応じて改善を行います。
中小企業では、産業医や保健師などの専門スタッフが不足している場合も多いですが、健康保険組合や民間企業のサービスを活用することで、専門家のアドバイスを受けながら、自社に最適な健康経営を推進することができます。
健康経営は、従業員の健康状態を向上させるだけでなく、労働生産性の向上、プレゼンティーイズムの低下、医療費削減、従業員の健康指標の改善など、様々な効果が期待できます。中小企業でも、従業員規模や経営状況に合わせて、健康経営に取り組むことで、企業の成長と従業員の幸福を実現することができます。
産業医/健康経営エキスパートアドバイザー 角田拓実
参考文献
- Ayako Toyoshima and Michiko Moriyama. Utility of health and productivity management in small and medium enterprises: a descriptive case study. 労働安全衛生研究 13, no. 1 (2020): 23-33.