産業医と医者の違いとは?

皆さんは、町の診療所や病院で働く「お医者さん」と、会社で働く人の健康を守る「産業医」の違いをご存知ですか?どちらも健康のプロフェッショナルですが、その役割は野球チームにおける「投手」と「監督」のように大きく違います。

病院で働く医師は、目の前の患者さん一人ひとりの病気やケガを治療することに専念します。それは、野球で例えるなら、マウンド上でバッターと真剣勝負を繰り広げる「投手」のような役割と言えるでしょう。

一方、産業医は、会社という組織全体を俯瞰し、そこで働く従業員一人ひとりが健康的に働き続けられるように、職場環境の改善や健康増進活動など、幅広い活動を行います。これは、チーム全体の戦略を練り、選手を育成し、勝利に導く「監督」の役割に似ています。

産業医の役割とは?

具体的に産業医は、どのような役割を担っているのでしょうか?

産業医の役割は、大きく3つに分けられます。

  1. 職場の環境チェック: 定期的に職場を訪問し、従業員が安全かつ健康的に働ける環境かどうかを評価します。例えば、工場では機械の安全対策や騒音・粉塵対策が適切かどうか、オフィスでは適切な照明や換気が確保されているか、など、様々な観点からチェックを行います。これは、野球場を点検し、選手が安全にプレーできる環境を維持するのと似ています。
  2. 健康相談: 従業員からの健康相談に対応し、適切なアドバイスや治療を行います。例えば、仕事のストレスや人間関係の悩み、生活習慣病の予防、メンタルヘルス不調など、従業員の抱える様々な悩みに対して、専門家の立場からサポートを行います。これは、選手がケガや体調不良を訴えた際に、適切な処置やアドバイスを行うトレーナーのような役割と言えるでしょう。
  3. 病気やケガの予防: 過労やストレスによるメンタルヘルス不調、職場での事故やけがなどを予防するための対策を立案し、会社に提案します。長時間労働の是正、休暇取得の推奨、 ergonomical な職場環境の整備など、従業員の健康を守るための様々な対策を講じます。これは、選手のトレーニングメニューやコンディション管理を行い、ケガを予防する役割に似ています。

このように、産業医は働く人々が健康で快適に働き続けられるよう、多岐にわたるサポートを提供しています。

通常の医師と産業医の主な違いは何か?

通常の医師と産業医の主な違いは、以下の3つに集約できます。

通常の医師 産業医
対象 個人 企業や組織で働く従業員とその職場環境
目的 病気やケガの診断・治療 労働者の健康の維持・増進、病気やケガの予防、職場環境の改善
専門分野 内科、外科、小児科など、様々な診療科が存在する 産業医学

通常の医師は、病院を訪れる患者さん一人ひとりの症状を診断し、適切な治療を提供することに重点を置きます。一方、産業医は、企業や組織で働く従業員の健康を維持・増進することを目的とし、病気の治療だけでなく、予防や健康増進にも積極的に関わります。

産業医が担当する病気や症状

皆さんは、毎日元気に学校に通っていますか?時には、風邪をひいたり、お腹が痛くなったりすることもありますよね。大人になると、毎日会社で働くことが、皆さんにとっての「学校に行くこと」になります。そして、会社で働く大人も、色々な体の不調を感じる時があります。産業医は、会社で働く皆さんの心と体の健康を守る、いわば「職場の保健室の先生」のような存在です。

会社では、皆さんが想像する以上に様々な要因が、心身の健康に影響を与えます。例えば、工事現場で働く人にとっては、騒音による難聴や、重労働による腰痛のリスクがあります。一方、オフィスで働く人にとっては、長時間のパソコン作業による眼精疲労や、精神的なストレスによるうつ病などが問題となるケースが多いです。

産業医がサポートする健康問題

では、産業医は具体的にどのような健康問題をサポートしてくれるのでしょうか?大きく分けて、以下の3つの分野になります。

  1. 仕事が原因で起こる病気やケガの予防と治療
    • 例えば、重いものを持ち上げて腰を痛めてしまったり、パソコン作業で目が疲れたり、工場の騒音で耳が聞こえにくくなる、などがあります。長時間の立ち作業が多い工場では、従業員の方々に腰痛予防のストレッチ体操を指導したり、適切な作業姿勢について指導したりします。また、デスクワーク中心のオフィスでは、定期的な休憩を促すことで、眼精疲労や肩こり、精神的な疲労を軽減するための取り組みを行います。
  2. 仕事と生活の調和(ワークライフバランス)のサポート
    • 仕事のストレスで夜眠れなくなったり、やる気が出なかったりするのは、心が疲れているサインかもしれません。産業医は、従業員の方々が仕事とプライベートの時間調整に悩んでいる場合、相談に乗り、具体的なアドバイスを行います。
  3. 職場環境の改善
    • 会社の机や椅子の高さはみんなに合っているかな? 部屋の明るさは十分かな?などの職場環境のチェックも、産業医の大切な仕事です。例えば、室内の照度が低いオフィスでは、従業員から眼精疲労や頭痛の訴えが増える可能性があります。産業医は、適切な照度を計測し、照明の調整を会社側に提案します。

産業医に相談できる症状はどのようなものか?

「なんだか最近、体がだるいなぁ」「よく眠れない日が続くけど、これって病院に行った方がいいのかな?」など、体や心の不調を感じたら、一人で悩まずに産業医に相談してみましょう。

具体的には、以下のような症状は、産業医への相談がおすすめです。

  • 体の症状: 頭痛、めまい、動悸、息切れ、食欲不振、吐き気、便秘、下痢、肩こり、腰痛、手足のしびれなど
  • 心の症状: 気分が落ち込む、不安感が強い、イライラしやすい、集中力が続かない、やる気が出ない、眠れない、食欲がないなど

これらの症状は、風邪や生活習慣の乱れが原因で起こることもありますが、仕事上のストレスが原因で起こることもあります。

例えば、職場で上司との関係が悪く、毎日ストレスを感じていると、胃が痛くなったり、眠れなくなったりすることがあります。

産業医は、皆さんの話をじっくりと聞いた上で、適切なアドバイスや治療を行ってくれます。医師として・産業医としての専門的な知識と経験に基づき職場における問題点を見抜き、組織のリーダーとして職場環境の改善を図ることも期待されています。

産業医は、皆さんの心と体の健康を守るために、様々な角度からサポートしてくれる存在なのです。

産業医と働く上でのメリットとは?

皆さんは、”町の診療所”と”学校の保健室”の違いを想像できますか?どちらも健康を守る場所ですが、町の診療所は病気の治療が中心なのに対し、保健室は日々の健康チェックや、怪我の予防、病気の早期発見など、健康を維持することに力を入れていますよね。

実は、産業医は会社にとっての”保健室の先生”のような存在と言えるでしょう。

働く人にとって、健康は仕事をする上での大前提です。毎日元気に働くためには、心身ともに健康な状態であることが大切です。しかし、仕事によるストレスや疲労、職場環境の変化などによって、知らず知らずのうちに心身に負担がかかっていることもあります。このような状況を予防し、健康を維持するためには、産業医の存在が非常に重要になります。

産業医の役割がもたらす効果とは?

産業医は、働く人の健康を守る専門家として、会社という”大きな船”を安全に航海するために、様々な役割を担っています。

  1. 職場環境の改善: 長時間労働や人間関係のストレスを抱える従業員が多い職場では、産業医が労働時間管理の指導や、コミュニケーション研修の実施などを提案します。これは、まるで船に航路の変更や速度調整を指示して、嵐を避けるように、職場環境を改善することで、従業員の健康を守ります。
  2. 健康教育: 生活習慣病予防のために、栄養バランスの取れた食事や運動の習慣を身につけるためのセミナーを実施します。これは、船員が体力維持のために、バランスの取れた食事や運動の習慣を身につけるように、従業員自身の健康 literacy を高め、健康的なライフスタイルを促進します。
  3. メンタルヘルスのサポート: 強い不安や抑うつ状態にある従業員には、専門の医療機関への受診を勧めます。これは、船員が航海のストレスで心のバランスを崩した際に、専門医によるカウンセリングを手配するようなもので、従業員の心の健康をサポートします。

このように、産業医は働く人々が健康に過ごせるよう、さまざまな角度からサポートを提供しています。最新の研究では、医師のリーダーシップが、医療現場だけでなく、職場環境の改善や健康関連の成果にも良い影響を与えるという報告もあります。

産業医の適切な選び方と注意点

職場環境の改善や健康に関する不安は、従業員にとって、時には仕事のパフォーマンスやモチベーションに影響を与えることもあります。従業員の心身の健康を守るためには、企業にとって産業医の存在は非常に重要です。

しかし、いざ産業医を選ぼうとした際に「どんな人に相談すればいいか迷ってしまう」「専門性や相性が合うか不安」といった声も耳にすることがあります。

そこで今回は、産業医を選ぶ上でのポイントや相談する際の注意点について、具体的に解説していきます。

産業医を選ぶ際に重要なポイントは?

産業医を選ぶ際には、企業の規模や業種、従業員の健康状態などを考慮し、適切な専門知識や経験を持つ医師を選ぶことが重要です。以下のポイントを参考に、自社に最適な産業医を見つけましょう。

  1. 専門分野: 産業医には、メンタルヘルス、過労死、VDT症候群、職場環境改善など、様々な専門分野があります。自社の抱える課題や従業員の健康状態を考慮し、適切な専門知識を持つ産業医を選ぶようにしましょう。例えば、IT企業であれば、長時間労働や精神的なストレスを抱える従業員が多いことが予想されるため、メンタルヘルスや過労死の予防に精通した産業医が適任といえます。反対に、製造業であれば、騒音や振動による健康被害、化学物質への曝露など、職場環境に起因する健康リスクへの対応が求められます。
  2. コミュニケーション能力: 産業医は、従業員との面談や健康相談、職場巡視などを通して、従業員の健康状態を把握する必要があります。そのため、従業員と良好なコミュニケーションを築ける、親しみやすく相談しやすい医師を選ぶことが大切です。 例えば、従業員の話をじっくりと聞き、共感してくれる産業医であれば、安心して悩みを打ち明けられます。「先生は話を聞いてくれない」と感じてしまうような一方的なコミュニケーションでは、従業員の健康管理はおろそかになってしまい、企業と従業員の双方にとって不幸な結果を招きかねません。
  3. 企業との相性: 産業医は、企業の経営者や人事担当者とも連携し、職場環境の改善や健康増進のための施策を提案していく役割を担います。企業理念や風土を理解し、積極的に協力してくれる産業医を選ぶことが重要です。 企業文化にそぐわない産業医を選んでしまうと、せっかくの提案も受け入れられず、効果的な対策が取れない可能性があります。

例えば、ベンチャー企業のように変化の激しい職場環境では、柔軟性やスピード感を持って対応してくれる産業医が求められます。一方、伝統的な大企業であれば、これまでの経験や実績を踏まえ、慎重かつ丁寧な対応をしてくれる産業医が適しているでしょう。

監修:愛知つのだ産業医事務所株式会社 産業医 角田拓実